第10回日本整形外科超音波研究会インターネット討論 演題2

超音波診断が有用であった腰筋滑液包炎の2例

亀田第一病院 整形外科

渡辺研二


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[目的]

 鼡径部の腫脹や疼痛を主訴として受診する症例の多くは鼡径ヘルニアや大腿ヘルニアであり、そのため外科に受診することが多い。しかし、ごくまれに腰筋滑液包炎(または腸腰筋滑液包炎)の症例がある。ヘルニアと診断され、手術時に腰筋滑液包炎ときづくこともあり、腰筋滑液包炎の診断に超音波診断を利用できるか検討することである。

[方法]

 鼡径部に腫脹を持つ症例に対して患者を仰臥位とし、股関節前方から超音波診断を行った。

[症例] 

 症例1は74歳女性で6ヶ月前から右鼡径部に腫脹を認め、当院外科外来受診した。大腿ヘルニアの診断にて鼡径部を切開したがヘルニアではなかったため、当科に紹介された。この症例に対して股関節前方から超音波検査した。股関節内の拡大は認められず、股関節前方の腸腰筋の前側にエコーのない腫瘤を認めた。これは内側で大きな無エコーの腫瘤となり、腸腰筋の内部もやや低エコー部がある。鼡径部の横断像で無エコー部が皮下にまで広がっている。

 後日、MRI検査をおこなった。MRIでも超音波検査と同様に股関節の前方から内方にかけてT2強調画像で高信号の部分を認めた。さらに股関節との関係を見るために関節造影を行ったが、造影剤の関節内から関節外への漏れは無かった。

外科での手術時の穿刺した後も再び増大する傾向があり、再手術にて摘出を行った。内容は黄色透明の液で腫瘤は腸腰筋に沿ってあり、鼡径靭帯の下で一部腹部から小転子部まで続いていた。途中、大腿神経、大腿動静脈とも接していた。これを摘出したが関節内との交通はなく、腰筋滑液包炎と診断した。その後約1年半経過で再発はない。

図追加

   

 症例 2は84歳の女性でつまずいてから股関節から膝にかけて疼痛が出現し、2日後に当科に受診した。X線検査では異常なく、股関節前方から超音波検査した。股関節包は骨頭と隣接しており関節腔の拡大は認めないが、前方腸腰筋部にエコーの無エコーの腫瘤を認めた。横断像でも無エコーのカプセルに包まれた腫瘤を股関節の前方で認めた。このため腰筋滑液包炎と診断し、超音波下に黄色透明の液15ml穿刺した。その後、約1年間経過で再発はない。

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[結果および考察]

 2例とも超音波で股関節内の拡大は認められず、股関節よりやや内側を中心に腸腰筋内または腸腰筋沿って無エコーの腫瘤を認めた。症例1は手術的に摘出し解剖学的位置関係を確認し、肉眼所見からも腰筋滑液包炎とした。症例2も超音波でほぼ同様の位置にあり、穿刺された液も同様の黄色透明の液であったことから腰筋滑液包炎と思われる。腰筋滑液包炎(または腸腰筋滑液包炎)は、まれに見る症例であり、診断に難渋することがある1)。また、腰筋滑液包炎と膿瘍との区別は超音波画像上は難しいと思われるが、超音波画像下に穿刺すれば容易に診断可能である2)。さらに関節内腫脹の有無についても超音波で容易に診断可能である3)。

 鼡径および大腿ヘルニアは外科医が治療を対象とする病気であり、腰筋滑液包炎は主に整形外科医が治療をすることが多い。もし、手術が必要となる場合、確定診断をしておかないと途中で術者が変わるか、または再手術になる可能性があり極めて重要な問題である。

 このようなことを防ぐ上でも、超音波診断は腰筋滑液包炎の補助診断法として非常に有用と思われた。

[参考文献]

1)薗田恭輔ほか:診断に難渋した腸腰筋滑液包炎の1例.整外と災外,39:880-881,1990.

2)日塔寛昇ほか:変形性股関節症に合併した腸腰筋滑液包炎の1例.関東整・災外誌,27:113-  116,1996.

3)渡辺研二:成人股関節疾患の超音波慎断,MB Orthop.11:149-161,1998.


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